― ゼロ予熱・ワンステップ焼きという考え方 ―
【結論】
家庭用オーブンでは
「予熱なし 180℃ 75分」
が、現時点での最適解である。
これは
甘さ(糖化)と
エネルギー効率の両方を最大化する条件だ。
【研究動機】
焼き芋という、異常に面白い料理
料理の中でも「オーブン調理」は、温度と時間という数字で管理できる。
なかでも焼き芋は、品種、芋の太さ、包み方といったパラメータが、そのまま味に反映される。
つまり、
ただ条件を振るだけで実験になる。
エンジニア気質の人間がハマる要素が詰まっている。
焼き芋は成熟分野か?
オーブン焼き芋の定番レシピを調べると、
「予熱あり 160℃ 90分」という条件がよく出てくる。
しかし、私はここに違和感を覚えていた。
- 予熱=空焚きでは?
電気代が高いのに、料理なしで熱を捨てている。 - アルミホイルで包む?
アルミニウムは製造に大量の電力を使う「電気の缶詰」。
しかも食品が付いたホイルは多くの自治体でリサイクルされない。 - 天板に直置き?
温度制御が重要な焼き芋にとって、鉄板との接触は過剰加熱を生む。
丁寧な暮らしを好む現役化学エンジニアとして、
低環境負荷と再現性のある美味しさを両立した焼き芋を設計してみたい。
そこで私は次の3つにこだわった。
予熱なし / アルミホイルなし / 直置きなし
【実験方法】
- シルクスイート 2本(計 約240g)を洗う
- 生協の紙カタログ(A3 1枚)で包み、水で濡らす
- オーブン下段に天板と網をセットし、中央に芋2本を置く
- 条件:
予熱なし160℃90分
予熱なし180℃60分、75分、90分 - 加熱後、庫内で15分静置してから取り出す
【結果】




| 条件 | 断面 | 実食 | 重量変化 |
|---|---|---|---|
| A. 予熱なし 160℃ 90分 | 中心が白っぽい | やや甘い | 147.5g→117.0g(79.3%) 94.5g→73.0g→(77.2%) |
| B. 予熱なし 180℃ 60分 | 中心が白っぽい | やや甘い | 139.0g→119.0g(85.6%) 105.0g→88.5g(84.3%) |
| C. 予熱なし 180℃ 75分 | 全体が黄色でねっとり 皮の焦げ目あり | 甘い | 122.0g→98.5g(80.7%) 109.0g→84.5g(77.5%) |
| D. 予熱なし 180℃ 90分 | 全体が黄色でねっとり 皮の焦げ目あり | 甘い | 239.5g→178.5g(74.5%) |
160℃90分では中心部の糖化が不十分だったが、電子レンジで1分30秒温めると黄色くなり、甘さも回復した。この条件はかなりギリギリの成立条件だと考えられる。
180℃60分でも中心部の糖化は完全ではなかった。75分以上では全体が完全に糖化した。また、皮が自然に剥がれており、茶色くなっており、メイラード反応による甘香ばしさが感じられた。


【考察】
なぜ焼き芋は甘くなるのか
さつまいもの中身は、ほぼデンプン(巨大分子)。
そこに含まれる酵素「β-アミラーゼ」がハサミのように働き、
デンプン → マルトース(甘い糖)
へと分解する。
このマルトースこそが焼き芋の甘さの正体だ。
なぜ温度がすべてなのか
デンプンと酵素には、決定的な温度条件がある。
- デンプンは 65〜75℃ で糊化(ほどける)
- β-アミラーゼは 75〜85℃ で失活(壊れる)
つまり焼き芋はこういう競争になる。
| 温度 | 中で起きていること |
|---|---|
| 60〜65℃ | まだ分解できない |
| 65〜75℃ | 糊化+酵素活性(黄金ゾーン) |
| 75℃以上 | 酵素が壊れる |
70℃前後をどれだけ長く通過させるか
これが甘さを決める。
アルミホイルが焼き芋に与える影響
アルミホイルで包むと水分が逃げず、表面温度が100℃を超えにくい。
水がある限り温度は100℃を超えられないからだ。
その結果、皮では
メイラード反応(120℃以上)
糖とアミノ酸が反応して香ばしい風味を生む反応
が起きない。
つまり、アルミホイルは「蒸し芋寄り」の仕上がりになる。
なぜ広告紙だと皮が美味しくなるのか
紙カタログは、
- 水分を保持しつつ
- ほどよく蒸気を逃がす
という天然の湿度制御材になる。
これにより
- 中身は 65〜75℃で糖化
- 皮は 120℃以上でメイラード反応
が同時に成立する。
オーブンの中に、
2つの反応環境を同時に作っていることになる。
焼き上がり後の広告紙を観察したところ、局所的に蜜の付着が見られたが、その部分を取り除けばリサイクルに問題はないと考えられた。

【結論(再)】
予熱なし 180℃ 75分
― ゼロ予熱・ワンステップ焼き ―
これは家庭用オーブンにおける
エネルギーと美味しさの最適化解である。
【今後の検討】
- ワットチェッカーによる電力消費量の実測
- 予熱あり160℃との電気代比較


